帝国ホテル・ライト館のVR再現へ取組むにあたって私たちが重要な手掛かりとしているのは、早稲田大学・明石信道教授の研究グループが解体直前に建物全体を細部に至るまで実測し、それをもとに作成された図面です。その成果については、1994年刊行の『旧帝国ホテルの実證的研究』(東光堂)にも収録されています。私たちは早稲田大学の協力を得て、当時作成された実測図面の原本を見させていただいたのですが、大きいもので長さ3mの大きな紙に、縮尺1/50でスクラッチ煉瓦の目地まで細かく描きこまれた緻密さに目を奪われました。
ライト館は、半世紀の歳月の間に、地盤沈下による変形や修理補修、増改築、戦災等によって著しく原形から変化している箇所が多くあります。明石信道氏らは、現地での実測作業13ヶ月と現地から離れて30ヶ月をかけ、創建当初の原形を復原した図面を完成させました。
特に最も華やかな饗宴場(ピーコックルーム)は1945(昭和20)年、第二次大戦の終端期である5月25日に隣接地にあった官有倉庫が爆撃を受けた際、火災によって全焼し、内部は原形をほとんど失っています。8月の終戦後に応急的に修理改装され、9月にはGHQに接収されていますが、大谷石に白ペンキが塗られるなど、随分と姿が変わってしまいました。これを図面では、創建時に洪洋社が発行した写真集などを参考にオリジナルの姿が描かれています。
この他、ライト館の解体前には当時建築分野で活用され始めた写真測量が実施されました。東京工業大学と東京大学の2チームによるもので、東工大の方は平井聖氏を中心として建物外観を98組(196枚)の乾板に記録しています。幸いなことに、当時現像した写真を平井聖先生が保管されており、私たちは解体前の外観について詳細を観察することが叶いました。
もう一つのチーム、東京大学生産技術研究所で実施したとされる屋内の写真測量成果については、私たちはまだ目にすることができていません。また「帝国ホテルを守る会」の有志が35mmフィルムで細部の記録撮影を実施したという情報も伺っています。今後、これらの写真・映像資料も見つけ出し、VR再現の参考にしていければと考えています。